2019年のグローバル「多次元貧困指数(MPI)」は、単なる金銭的指標を越え、人々が日常的にどのような形で貧困を経験しているかを見ることにより、全世界の貧困の姿を詳しく描き出しています。例えば、MPIは人々が健康かどうか、きれいな水を利用できるかどうか、学校に通えているかどうかを考慮に入れています。全世界の多次元貧困の性質と程度に関する情報が得られれば、政策立案者は、あらゆる形態の貧困に終止符を打つという、持続可能な開発目標(SDG)1の課題によりよく対応できるようになります。
2019年版のグローバルMPIは、57億人が暮らす101か国を対象としていますが、これは世界人口の約76%にあたります。多次元貧困層とは、健康、教育、生活水準に関する加重指標のうち、少なくとも3分の1で貧困状態にある人々を指します。
豊かな国と貧しい国を分けて考えることに、もう意味はありません。多次元貧困層の3分の2を超える8億8,600万人は、中所得国で暮らしているからです。2019年グローバルMPIは、不平等の観点から貧困を捉え、誰が浮上し、誰が取り残されているのかを明らかにしています。
全世界で13億人を数える多次元貧困層のうち、3分の2を超える8億8,600万人は、中所得国で暮らしています。MPI貧困層の約3分の1に相当する4億4,000万人は、低所得国で暮らしています。
もちろん、貧困層は各国の国内に一様に見られるわけではありません。例えば、ウガンダ(低所得国)の多次元貧困率は55.1%と、サハラ以南アフリカの平均に近い数字となっています。しかし、これを詳しく見ると、ウガンダはアフリカの状況を典型的に表していることが分かります。貧困率はカンパラの6.0%からカラモジャの96.3%に至るまで、大きな開きがあります。つまり、国内の各地域には、南アフリカと南スーダンという、サハラ以南アフリカのMPI最小値と最大値を示す国と同じだけの格差があるということになります。
中所得国の国内の各地域を見ると、多次元貧困率にはゼロから86.7%までの差があります。低所得国では、この値が0.2%から99.4%となっています。
グローバルMPIを詳しく見ると、各地域と各国の間に著しい不平等が存在することが判明するだけでなく、多次元貧困層がどこで暮らしているかについても、新たな理解を得ることができます。
多次元貧困層の割合が最も高いのは、サハラ以南アフリカと南アジア(多次元貧困層全体の84.5%がこれら2地域に存在)ですが、多次元貧困率には、各国間で大きな差があります。サハラ以南アフリカでは、南アフリカの6.3%から南スーダンの91.9%、南アジアでは、モルディブの0.8%からアフガニスタンの55.9%までの開きがあります。
その他の地域でも、貧困対策が必要です。イエメン(47.7%)、東ティモール(45.8%)、ハイチ(41.3%)はいずれも、多次元貧困率が相対的に高くなっています。
貧困の全体像をつかむためには、その深さと広がりの両方を見る必要があります。平均の値を見ても、人々がそれぞれ、どのような形で貧困を経験しているかは分かりません。グローバルMPIは、貧しい人々の数と、その貧困の程度の両方を見ることで、この点を分析しています。
相対的に貧しい国々は、多次元貧困層の数が多いだけでなく、各人がより多くの指標において困窮している(すなわち、より大きな貧困に苦しんでいる)という意味で、深刻度も高い状態にあります。
貧困率が同程度でも、深刻度は大きく異なる国があります。例えば、マラウイとナイジェリアではともに、人口の約半数が多次元貧困層にあたりますが(それぞれ52.6%と51.4%)、貧困の深刻度には違いがあります(それぞれ46.2%と56.6%)。
貧困には多くの側面があります。ナイジェリアやパキスタン、スーダン、ハイチといった国では、貧しい人々の間での不平等が大きく、多次元貧困層の中にも、大きな異質性が見られています。
多次元貧困層内部の不平等(各人の貧困スコアの「分散」で測定されるもの)は、MPIの値とともに大きくなる傾向がありますが、状況は国によって大きく異なっています。例えば、エジプトとパラグアイのMPIの値はほぼ同じ(ともに0.190程度)ですが、多次元貧困層内部の不平等は、エジプト(0.004の分散)よりもパラグアイ(同0.013)で大きくなっています。
貧困層内部での不平等が最も大きい国は、南アジアでパキスタンとバングラデシュ、アラブ諸国でスーダンとイエメン、ラテンアメリカ・カリブではハイチとなっています。
ナイジェリアやパキスタンなど、平均的深刻度に大きな差がある国では、異なる貧困層集団に見合った政策を確保することが特に必要となります。貧困の深刻度が最も高い集団と、最も低い集団との間には、ニーズに大きな差がありうるからです。
グローバルMPIを年齢別にみると、年齢層の間に不平等があることが分かります。多次元貧困に陥る者の割合は、成人よりも子どもで高くなっており、中でも最も幼い子どもたちが、一番大きな負担に苦しんでいます。
MPI貧困層13億人のうち、ほぼ半数(計6億6,300万人)は子どもであり、10歳未満の子どもはその32%(4億2,800万人)を占めています。
子どもの貧困率は、成人の2倍に上ります。3人に1人の子どもが、多次元貧困に陥っているのに対し、成人の割合は6人に1人となっています。
子どもは成人よりも、多次元貧困に陥り、すべての指標で貧しくなる確率が高くなっています。つまり、貧困の深刻度も高いということです。
ブルキナファソやチャド、エチオピア、ニジェール、南スーダンでは、10歳未満の子どもの約90%以上が、多次元貧困に陥っています。
南アジアでの子どもの貧困を見ると、家庭内の格差やジェンダー格差があることも分かります。
南アジアでは、5歳未満の子どもの22.7%が家庭内で栄養面の不平等を経験しています。同一家庭内で、少なくとも1人の子どもが栄養不良に陥っている一方で、少なくとも1人の子どもは栄養不良になっていないからです。パキスタンでは、5歳未満の子どもの3分の1以上が、家庭内で栄養面の不平等を経験しています。
南アジアでは、女児の10.7%が就学せず、多次元貧困状態にある家庭で暮らしていますが(これに対し、男児の割合は9.0%)、この平均値には、国による大きな差が隠されています。アフガニスタンでは、こうした女児の割合が44.0%(男児の24.8%に対し)に上っているからです。
経年変化を調べる調査[1]の速報値を見ると、調査対象となった国家群[2]で暮らす貧しい人々の数は、11億人から7億8,200万人へと、大幅に減少しています。
エチオピアを除き、調査対象となった10か国ではいずれも、最貧層40%の困窮状態がその他の層を上回るスピードで改善しました。このパターンはインドとペルーのほか、コンゴ民主共和国とバングラデシュでも特に強く見られます。相対的に見ても、すべての国で、最貧層40%の達成状況改善は、全国的な改善を上回っています。
[1] この経年分析では、トレンドを指標別に厳密に調査し、人口集団別に分解できるよう調整されたデータセットを用いています。
[2] 対象国は、世界の各地域から、上位中所得国(ペルー)、下位中所得国(バングラデシュ、インド、ナイジェリア、パキスタン、ベトナム)、低所得国(コンゴ民主共和国、エチオピア、ハイチ)の各所得区分を反映する形で選ばれています。
すべての調査対象国で、人々の教育、健康、生活水準の多くの側面で顕著な改善が見られましたが、データは前進の形に違いがあることを示しています。
エチオピア、インド、ペルーは10の指標すべてで、貧困を大幅に削減しましたが、最も大きな成果を上げた分野は、それぞれ異なっています。エチオピアは栄養、就学、飲み水、資産で最も大きな改善を遂げました。インドは栄養、衛生、調理用燃料、資産で大幅な改善を達成しました。そしてペルーは、クリーン・エネルギーと住宅、資産を改善させました。その他の国は、10の指標全体ではないにせよ、その多くで貧困を大幅に削減しました。バングラデシュは9つの指標、ハイチは8つの指標、コンゴ民主共和国とパキスタンは6つの指標で貧困を削減しています。
前進にもかかわらず、調査対象のすべての国で、依然として農村部は都市部よりも、子どもは成人よりも、それぞれ貧しい状況が続いています。
ハイチ、インド、ペルーでは、農村部の貧困削減が都市部よりも早く進むという、格差縮小にプラスとなるトレンドが見られますが、これは貧困層に資する動きと言えます。
バングラデシュ、ハイチ、インド、ペルーでは、子どもの貧困が成人の貧困よりもはるかに速く減少しました。しかし、その他の調査対象国では、エチオピアのように子どもがさらに取り残されたり、コンゴ民主共和国やパキスタンのように、子どもの貧困改善が成人と同様に停滞したりしています。
貧困と不平等の現状を追跡するためには、多くの視点が必要です。
貧困は複雑であり、ジニ係数で測定されるような経済的不平等とMPIの間には、相関関係がほとんど、または全くありません。
MPIと経済的不平等、不平等調整済み人間開発指数(HDI)はそれぞれ、誰一人取り残さないようにするための政策的措置に役立つ重要かつ独特な分析を提供しています。
2019年グローバルMPIテクニカルノート:
2019年版グローバル多次元貧困指数(MPI)は、57億人の人口を抱える101か国を対象としています。これは世界人口全体の約76%に相当します。
2019年のMPIは、サハラ以南アフリカの人口の99%、南アジアの人口の95%、東アジア・太平洋の人口の95%、ラテンアメリカ・カリブの人口の81%、アラブ諸国の人口の81%、東欧・中央アジアの人口の32%を対象としています。
2019年グローバルMPIは、14か国につき、新たなデータセットを用いています。その内訳は、アルバニアが2017/18年人口保健調査(DHS)、ベナンが2017/18年DHS、コンゴ共和国が2014/15年複数指標クラスター調査(MICS)、ハイチが2016/17年DHS、イラクが2018年MICS、ヨルダンが2017/18年DHS、ラオス人民民主共和国が2017年MICS、モルディブが2016/17年DHS、パキスタンが2017/18年DHS、フィリピンが2017年DHS、セネガルが2017年DHS、シエラレオネが2017年MICS、南アフリカが2016年DHS、タジキスタンが2017年DHSとなっています。
2019年MPIの算定に用いられた調査には、50件の人口保健調査(DHS)、42件の複数指標クラスター調査(MICS)、1件のDHS-MICS同時調査のほか、DHSやMICSに匹敵する情報を提供する8件の国内調査が含まれています。
調査年度は各国につき最新のデータが入手できる時期に応じて、2007年から2018年まで開きがあります。大多数の対象者(57億人中52億人、MPI貧困層13億人中12億人)は、2013年以後に実施された調査で状況の把握が行われています。
多次元貧困層の数は、すべての国について、国連経済社会局(UNDESA)人口部による2017年時点の総人口推計を用いて算定されています。
多次元貧困層とは、健康、教育、生活水準に関する加重指標の3分の1以上で貧困状態にある人々を指します。具体的指標としては、栄養、乳幼児死亡率、就学年数、就学率、調理用燃料、衛生、水、電力、床張り、資産所有が挙げられます。
深刻な多次元貧困層(または深刻な貧困層)とは、健康、教育、生活水準に関する加重指標の半分以上で貧困状態にある人々を指します。
多次元貧困に陥りやすい人々とは、加重指標の20~33%で貧困状態にある人々を指します。
ハイチとペルー、バングラデシュ・インド・パキスタン・ベトナム、コンゴ民主共和国(DRC)・エチオピア・ナイジェリアという国家群につき、2019年グローバルMPIには、経年トレンドに関する調査の速報値も含まれています。