親の格差が生む教育格差、家庭の重要性増す背景 社会学者・山田昌弘、多様な能力が必要な時代に

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发布时间:2024-08-02 13:23

東洋経済education×ICT education特集 親の格差が生む教育格差、家庭の重要性増す背景

親の格差が生む教育格差、家庭の重要性増す背景

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親の格差が生む教育格差、家庭の重要性増す背景 社会学者・山田昌弘、多様な能力が必要な時代に

2022年、教育界だけではなく社会全体が注目すべき課題として教育格差がある。教育格差とは、生まれ育った環境によって、学力や学歴などの教育成果に違いがあることをいう。そう聞いて発展途上国を連想する人がいるかもしれないが、今や教育格差は日本でも身近な社会課題だ。それがコロナ禍によって、さらに拡大しているという指摘がある。教育格差の広がりによって、社会階層の固定化がもたらされる懸念もある中、私たちは教育格差にどう向き合っていけばいいのか。“パラサイト・シングル”や“婚活”、そして“格差社会”の名付け親で、社会学者の山田昌弘氏に話を聞いた。

2022/01/12

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

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「学力では測れない能力」のほうが必要になっている

2020年3月、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大によって、全国の学校で一斉休校が実施された。長いところで3カ月ほど休校になった学校もあったが、その対応にはかなりの差があったことを覚えている人は多いだろう。

コロナ以前から、ICTを活用した教育に力を入れていた多くの私立では、子ども一人ひとりにタブレットやパソコンを配布していたことから、オンライン授業にスムーズに移行できた。一方、公立では宿題としてプリントを配布するのが手いっぱいで、学びを継続できた学校は本当に少なかった。

こうした学校の対応の違いが、休校期間中の子どもの過ごし方に大きく影響した。とくに家庭のIT環境や教育方針、保護者のサポートの有無などが、子どもたちの学びを左右し、学力差を拡大させたという調査もある。しかし、問題はそれだけではないようだ。コロナ禍における日本の格差社会の問題点について警鐘を鳴らしている社会学者で、中央大学文学部教授の山田昌弘氏は、次のように指摘する。

「昔は、学力だけでよかった。受験を突破していい学校に入れば、メドがつきました。ところが今は、英語力、コミュニケーション力、デジタル力、さらには人脈力など学力では測れない能力のほうが必要になっている。非認知能力ともいわれていますね。工業型社会から情報やサービスを中心とする第3次産業中心の社会へ移り変わるに従って、求められる能力が変わりました。学力だけでなく、多様な能力を身に付けなければ、いい職に就けない、能力を発揮できない状況になっています」

その分岐点となったのが1990年代後半だ。日本は高度経済成長を果たした後、「1億総中流」社会へと変革を遂げた。「誰もが勉強をすれば豊かな生活が送れる」という中流意識を支える根本が「教育」にあったのだ。バブル崩壊後、安定した産業社会が崩壊し、世帯年収が減少。グローバル化の進展とともに格差が拡大していった。

英語力・コミュ力・デジタル力・人脈力に重要な家庭環境

こうした格差社会は、さまざまな国で広がっているが、グローバルで教育格差を見てみると、欧米諸国と東アジアでは性質が大きく異なる。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
社会学者、中央大学教授
1981年東京大学文学部卒。86年同大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京学芸大学教授を経て2008年より現職。専門は家族社会学。愛情やお金(経済)を切り口として、親子・夫婦・恋人などの家族における人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。基礎的生活条件を親に依存している未婚者の実態や意識について分析した著書『パラサイト・シングルの時代』(筑摩書房)は話題を呼んだ。1990年代後半から日本社会が変質し、多くの若者から希望が失われていく状況を『希望格差社会ー「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(筑摩書房)と名付け、格差社会論の先鞭をつけた。結婚活動、略して「婚活」の造語者でもある。『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』(光文社新書)、『結婚不要社会』『新型格差社会』(ともに朝日新書)など著書多数
(写真:本人提供)

「成人すれば子どもも自己責任」という欧米と比べて、東アジア諸国は「親の生活を犠牲にしてでも、子どものために尽くさなければならない」という家族文化が強い社会。日本は、中国や韓国ほどではないものの、欧米に比べると「いい教育を受けさせることが親の務めであり、人生の目標になっている」という。こうした「子どもにはできるだけお金をかけて教育したい」という教育に対する熱心さが、少子化にもつながっていると山田氏は話す。そこにコロナが襲ってきた。

「子どもは学校に行っている間は平等でした。つまり、学校という空間に一定時間、子どもを閉じ込めていれば、学校の中での平等は達成できた。とくに学力が中心であった時代は、学校の中での平等が確保されていれば、うまくいったわけです。学校にいる時間が少なくなったため、必然的に学校外の影響が増したというわけです」

大抵の子どもにとって勉強はしたくないもの。学校に行けば、親に代わって先生が子どもを見てくれる。しかし、コロナ禍で学校が休校になることによって学校外の時間が増えた。収入が高い家庭は専業主婦の比率が高いというが、そういう家庭では子どもの動静を管理することができた。今は、こうした家庭環境が、学力以外の多様な能力を身に付けるのにも重要になっているという。

「ITを使うにもインテリジェンスを持っている親が必要だということです。日頃からパソコンを使っている親がいる家庭と、そうでない家庭とでは、子どもにITスキルを身に付けさせるのにも、その対応に違いが出てきます。教養のある親ならサポートすることができますが、まったくパソコンに触れたこともない親も世の中には少なからずいます。パソコンと無縁な親の元で育った子どもは、ある程度成長してからそのスキルをゼロから身に付けなければならないわけです」

子どもにしても、もし親が日頃から英語でリモートワークをしていれば、世の中にはそうした仕事があるということがわかる。だが、親が働いている姿を見たことがなかったり、親やその周辺が教えたりしなければ、世の中に英語を使わなければできないような仕事があることもわからない。英語ができて当たり前だと思って育つ子と、できないことが当たり前だと思って育つ子では、英語習得に対する「やる気」の濃淡にもおのずと違いが生じてくる。

残念ながら、現代に必要な英語力、コミュニケーション力、デジタル力、人脈力といった能力は、学校に通っているだけでは身に付けることがなかなか難しい能力だという。つまり、コロナ禍は、学力というよりは、親の格差が子どもの教育格差につながる実態を浮き彫りにし、学力以外の格差を拡大させたと山田氏は言う。

「昔は、親の学歴や収入がそれほどよくなくても、一流校に入って周囲の仲間に恵まれると学力以外の多様な力も身に付けることができた。しかし、今は一流校に入る時点で格差が広がっているし、学校を出た後の就職先や仕事のやり方にも影響が出ています。今は公務員試験でも面接の比重が高まって、学力だけでは合格しにくくなっています。昔はコミュニケーション力がない人でも相応の働き口があったのですが、いくら学力があっても口下手でコミュニケーション力がない人は面接で落とされるケースが増えているのです」

相対的貧困にある子どもから「やる気」が生まれない理由

これはIT技術に取って代わられるような中間的な仕事が減少していることが大きく影響している。

例えば、そろばんの仕事がパソコンに置き換わったように、コツコツと経験を積み上げて、誰でも同じ結果を出せるような仕事が機械に置き換えられた結果、プログラムを作る仕事か、逆にパソコンに数字を打ち込むような機械に使われる仕事かの両極に大きく分かれ始めている。徐々に生産性の高い仕事と生産性の低い仕事に分かれているのが、現代社会の特徴なのだ。

そこで欧米では生産性の低い仕事は移民、生産性の高い仕事は自国民に任せる形を取ったが、日本では生産性の低い仕事でも、大半を日本人がやっているという状況になっている。とくに地方は課題が少なくない。

「都市と地方で見ても、地方の企業の生産性は大きく落ちています。それは地方が生産性の向上を目指さず、秩序だけを守ろうとしているからです。私も内閣府の男女共同参画会議の民間議員として何度も指摘してきたのですが、コネ採用が横行し、仕事も保守的な姿勢のまま。これまでどおりにしていれば何とかなる。そうした地方ほど徐々に衰退しているのです」

優秀でやる気のある人ほど都会に出てしまう。こうした状況は日本経済にも大きな影響を与えかねない。それによって地方と都市の格差が加速し、教育格差も拡大していくからだ。では、教育格差を学校という現場でサポートしていくことはできるのか。

「今も学校の内外で、ボランティアで子どもたちが学ぶ場を設けていると思いますが、そこにやって来る子どもたちの親は大抵が相応の学歴がある人たちなのです。ただ、ここで強調したいのは、そうしたボランティアの場では学びの中身というよりも、子どものやる気を引き出すことができるかどうかが重要なのです」

昔なら貧困に耐えながら、親のようになりたくないからと、子どもが自覚的にやる気を引き出すこともあった。しかし今はとりあえず豊かに生活できている分、そこまでのやる気が子どもたちの内面からは生まれてこない。日本は格差社会といっても、絶対的貧困ではなく相対的貧困といわれる状況にある。飢えることなく、とりあえず楽しいものがあふれる社会では、かつてのように貧しくとも立身出世を目指すというような子どもたちが少なくなっているのだ。

日本がなかなか変われないというのは、よく指摘されること。しかし、日本を取り巻く周囲の環境は変わっていく。このまま格差を拡大させながら、日本は徐々に衰退していくしかないのだろうか。そうしないために、教育は何ができるのか。山田氏がこう語る。

「少しでも子どもにやる気があれば、それを伸ばしていく。先生などが親代わりとなって、面白いこと、興味のあることを見つけて、モチベーションを高めながらやる気を育てていくしかありません。学校でもICTを使えば、それほどお金をかけることなく英語などの勉強をすることができます。そのためにも、先生たちは子どもたちに今まで以上に寄り添っていく。そうやって子どもたちのやる気に火をつけることが大事になっていくと考えています」

親の所得が子ども世代に影響し、格差が再生産されている。貧困をなくす経済的な支援が行政に求められることはもちろん、子どもを社会で育てるという意識が、ここ日本にも必要ではないだろうか。学校も、世の中の変化に合わせて必要となる能力が変化していることを理解し、柔軟に変わっていくことが求められる。

(文:國貞文隆、注記のない写真:Graphs/ PIXTA)

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